洋館付き住宅といっても、単に和風の住宅の玄関脇に一間だけの洋館が引っ付いただけの建物です。70年前後の時間を現役で過ごしてきただけに、それなりの風格はありますが、建築史的にもまだまだ大層な価値のある建物の仲間入りは出来ません。住宅デザインから言っても、最近の動向からみて、和洋取り混ぜた変にアンバランスな建物です。
では、なぜ私は「やれ残せ、大事にしろ」と入れ込んでいるのでしょうか?・・不思議なことです。・・そこで、無理やり、理由を探してみました。
1.住宅地のランドマーク
細分化が進む最近の住宅では、願っても難しい昔ながらの敷地規模や建物面 積があり、実は1軒だけでもかつての住宅地の景観をしっかり残しているのです。周辺の住宅地でも景観上重要なポイントになっています。画一的な住宅が量
産される今、これは貴重な存在です。
2.しっかりした「つくり」
外から見ても分かりますが、中に入るとさらにびっくり。
まず、使っている材料が良い(全て本物)。新建材などありません。しかも、それを施工した職人さんたちの腕の良さが一目でわかる丁寧な「つくり」です。今、これを再現すると、材料だけで5倍以上、手間を考えると10倍位
の価値があることは間違いなし・・・かな?
見ていて飽きません。まぁ、もっとも、法律や規制が多くなり、これとまったく同じには作ろうにも作れないのですが。(余計なことですが、都市計画法や建築基準法・消防法は、実は必要悪かもしれません)
3.使いにくい「間取り」こそ、贅沢
平面にしても、最近のnDKタイプなんて、まったく考えもしない頃の間取りですから、お客様重視型になっています。現代のライフスタイルからみたら、何と無駄
が多く、使いにくい「間の抜けた」間取りなんでしょう。でも、少し考えると、この現代のライフスタイルが最善でしょうか。余裕もゆとりもない機能一点張りで、狭い中に個室を組み合わせ、並べるだけの小さな住宅ばかりです。隣の家とも近接し、実は、住み難いのをガマンしているだけではないでしょうか。
現代の生活の中で、便利で快適なものは、車と住宅設備・家電製品ぐらいのものです。そんなものは、取り替えればすむし、このライフスタイルに合わない「間の抜けた間取り」も、実は、住人がお客と家人を一人で二役こなせば、ぴったりフィットするのです(・・・理論上は)。幸い、時代はあまりガツガツ働かず、時間をゆったり(有効に?)使い、自分の生活や趣味に使うことが当たり前になりつつありますので、もし、経済的に許せば、一人二役なんてこんな理想的なことはありません。「間が抜けて」いるのでなく、余裕のある贅沢な空間というものです。
4.光る暮らしの道具達
洋館付き住宅には、70年前から残る暮らしの道具や家具が自然に生き残っているではありませんか。これらは今買うと高いですよ。見方を変えると「お宝」ですよ。リサイクルや省エネが叫ばれる今、身の周りに残るこうした生活用品をもう一度見直し、ものを「大切に使う」ライフスタイルを考えることは、きっと一番新しく、大事なことだと思います。
等々、こじつければこの他にも色々あります。70年間の市民生活の「生き証人的存在としての衣・食・住」に関する全てがつまっているのですから。
そして、なにより、そこに住んでいる実際の「生き証人」がいて、その人が、これを大切にしたいと思っているという現実があります。 「これを大事にしなくて、何を大事にするのか」「これを応援しなくて、何を目指して技術者ぶっているのか」……なんてね。
5.おわりに
まぁ、あんまり肩に力を入れずとも、こうして意識的にみていくと、洋館付き住宅は実に味わい深い存在であります。
ただ単に会の活動のための作業をしていると気づきませんが、よくよく見ると、これからの時代ますます大事なことをやっているし、「良い素材」を相手にしているとつくづく感じられます。
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